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「レアカード」になれ:未来を創るためのキャリア

伊藤 智範 Tomonori Ito(高52回)

プラニスウェア・ジャパン株式会社

ビジネスディベロップメント バイスプレジデント

 

私は具体的な仕事紹介というよりは、予測不能な時代を自分らしく生き抜くための「キャリアの考え方」について、自身の経験を交えながらお話ししたいと思います。キャリアとは、一度決めたゴールを目指す一本道ではなく、自分だけの物語を能動的に書き上げていく「冒険」のようなものだと私は考えています。そして、その冒険のコンパスとなるのは、「何になりたいか」以上に、「なぜ、それをしたいのか?」という問いです。

 

白衣に込めた夢と「見えない壁

私の冒険は、科学の世界への憧れから始まりました。大学院で化学を学び、製薬会社で創薬研究者としてのキャリアをスタートさせました 。自分の研究がいつか世界の誰かを救うと信じ、新しい分子の設計に没頭する日々は刺激的でした 。   

しかし、情熱を注いだ研究テーマが、ある日突然打ち切られるという「見えない壁」に何度もぶつかりました。理由は科学的な問題ではなく、いつも「予算がない」「事業性が見込めない」というものでした。科学的に正しいだけでは、価値あるものを世に送り出すことはできない。この悔しさ、無力感が私のキャリアを大きく変える原動力となりました。壁を嘆くのではなく、壁の向こう側に行き、その構造を理解し、科学の価値を最大化する武器を手に入れよう。そう決意し、6年間着続けた白衣を脱ぎました 。   

 

新しい武器を求めて:科学者がビジネスの「言語」を学ぶ

私は同じ会社の中で「R&Dファイナンス」という部署に移りました 。研究開発という船の「航海士」のように、どのプロジェクトにどれだけ投資すべきかを見極め、会社全体の成長に貢献する仕事です。それは科学を捨てたのではなく、ファイナンスという新しい「言語」を操り、科学の価値を最大化するための挑戦でした。東京本社で経験を積んだ後、アメリカのシカゴへ赴任し、グローバルな意思決定の現場を肌で感じました 。この経験を通じて、私の視点は一つの研究所から、世界全体を俯瞰するものへと変わっていきました。   

 

「個」から「組織」へ:価値を最大化する働き方

キャリアの初期、研究者だった頃の私の成功は、あくまで「個人」の成果でした。しかし、ファイナンスや経営企画に移ってから、成功の定義は大きく変わりました。「個人として結果を出す」ことから、「組織や会社全体で結果を出せるように貢献する」ことへとシフトしたのです。

私がリーダーとして関わってきたDX(デジタル・トランスフォーメーション)やグローバルな組織改革プロジェクトは、まさにその実践でした 。例えば、新しい経営管理システムをグローバルで導入するプロジェクトでは、世界中のメンバーと協力し、会社の血液とも言えるお金の流れをよりスムーズで透明性の高いものに変えようとしました 。   

これらの仕事の目的は、私一人が優れた仕事をすることではありません。組織全体がより賢い意思決定をし、より効率的に仕事を進められるような「仕組み」や「文化」を作ること。個人の力を足し算で増やすのではなく、組織の力を掛け算で増やす。そこに、より大きな価値とやりがいを感じるようになりました。この考え方の延長線上に、現在の仕事があります。今は、プラニスウェア・ジャパンという会社で、かつてユーザーとして導入を推進したソリューションを通じ、日本中の多くの企業が同様の経営課題を解決するのを支援しています 。自分の経験を、一つの組織から、より多くの組織へ、そして社会全体へと広げていく。これもまた、私の挑戦です。   

 

「ポケモンのレアカード」を目指す

キャリアを歩む中で、私の指針となったのが、尊敬する上司からもらった「ポケモンのレアカードになれ」という言葉です。他とは違うユニークなスキルの組み合わせで、代替不可能な価値を持つ人材になれ、という意味です。私については今のところ、「科学の知識」×「ファイナンスと経営のスキル」×「グローバルな実務経験」という掛け算でレアリティを上げられたと思っています。

この考えは、「“〇〇会社の私”ではなく、“私”として生きる」という信条に繋がっています。会社の看板がなくとも通用する市場価値を持つために、常に自分をアップデートし、違いを作り続けることが大切だと考えています。

 

次のバトンは同級生の小倉くんが代表を務める、コリニア株式会社の岩瀬直人さんにお繋ぎします。

 

冒険の主なパートナー(所属会社)

アステラス製薬株式会社 https://www.astellas.com/jp/

協和キリン株式会社  https://www.kyowakirin.co.jp/index.html

プラニスウェア・ジャパン株式会社(現職)  https://jp.planisware.com/